【米国株】米小売最大手ウォルマート第2四半期決算深層分析:最高益の陰に潜む米国店舗減速と高バリュエーション

1.要約

米小売最大手ウォルマート(Walmart Inc., NASDAQ: WMT)が発表した2027年度第2四半期(2026年5月~7月期)決算は、総売上高が1,879億4,000万ドル(前年同期比5.9%増)、調整後EPSが0.81ドル(同19.1%増)となり、市場コンセンサス予想(売上高1,868億ドル、調整後EPS 0.74ドル)をともに上回る増収増益を達成した。グローバルEC売上高が前年同期比23%増、広告事業(Walmart Connect)が同38%増と高粗利益率事業が好調を維持し、通期の売上高および調整後営業利益の見通しも上方修正された。   

しかし、決算発表が行われた2026年8月20日の米国株式市場において、ウォルマートの株価は前日終値の114.30ドルから約9.2%急落して103.84ドルで取引を終え、一夜にして約830億ドルの株式時価総額が消失した。表面的な好決算にもかかわらず市場が厳しい売りで反応した背景には、成長の質に対する根強い懸念が存在する。   

第一に、主力の米国既存店売上高(ガソリン除く)の伸び率が2.6%へと減速し、市場予想の3.5%~3.8%を下回った点である。買物1回あたりの平均客単価の伸びが前年同期の3.1%から1.1%へと急鈍化しており、処方箋薬の価格改定(最大適正価格規制)による押し下げ効果に加え、低・中所得者層を中心とする購買力の失速が鮮明となった。   

第二に、営業利益率改善の主因に一律の関税還付金(IEEPA関連還付)という一時的要因が含まれており、本業における実質的な収益力拡大ペースが見た目ほど劇的ではない点である。   

第三に、通期調整後EPSの修正見通し(2.80~2.87ドル)の中央値が市場コンセンサス(約2.90ドル)に届かず、とりわけ第3四半期の調整後EPS見通し(0.62~0.64ドル)が前年同期比約1.6%増とほぼ横ばいにとどまる計画が提示されたことである。受領した関税還付金を価格還元(値下げ)へ再投資する同社の戦略により短期的な利益成長が抑制される見通しとなり、PER 36倍超という高い期待を織り込んでいた株価にマルチプル圧縮の圧力がかかった。   

2.評価

評価項目採点主な評価根拠
総合評価B表記上の業績上振れにもかかわらず、米国本業の成長鈍化と高バリュエーションの修正が顕在化
成長性B米国既存店売上高の減速と第3四半期の利益成長停滞計画が重重たる足枷
収益性A広告・EC・会員収入など高利益率事業の拡大と関税還付による利益率改善
財務健全性A豊富な営業キャッシュフロー創出と継続的な自社株買い、健全な負債水準
競争優位性S圧倒的な店舗網、オムニチャネル物流拠点化、購買データのマネタイズ力

総合評価をBとする背景には、表面的な決算数値の達成と市場の期待値との間に大きな乖離が生じている現実がある。全社売上高および調整後EPSは市場予想をクリアし通期見通しも引き上げられたものの、利益率改善の相当部分が一時的な関税還付金によって底上げされたものであり、主力の米国店舗における客単価伸び悩みが示す実体経済の冷え込みを覆い隠すには至っていない。高バリュエーションで放置されていた株価に対する警戒感を含め、慎重な視点が必要とされる。   

成長性をBと評価する理由は、同社の収益の柱であるウォルマート米国部門(Walmart U.S.)における既存店売上高成長率が、前四半期の4.1%から2.6%へと著しく減速した点にある。来店客数の伸び鈍化に加え、平均客単価の上昇率が1.1%にとどまったことは、インフレ疲弊やガソリン高に伴う消費者の支出抑制を如実に物語っている。グローバルEC(23%増)や中国事業(現地通貨ベース売上高20.7%増)といったデジタル・海外領域は好調を維持しているものの、第3四半期の調整後営業利益成長率見通しが2%~4%増、調整後EPS成長率が約1.6%増と設定されており、短期的モメンタムの低下は避けられない情勢である。   

収益性をAと評価する根拠は、粗利益率が前年同期比96 bps改善して25.4%へ達するなど、高利幅事業への構造転換が進んでいる点である。リテールメディア広告事業(米国Walmart Connectが43%増)やサードパーティ向けマーケットプレイス、会員金収入(17%増)といった限界利益率の高いビジネスが順調に拡大している。ただし、当四半期の営業利益成長(28.8%増)には関税還付金という一時的要因が含まれており、これを除いた恒常ベースでの実質利益拡大スピードは見た目よりマイルドである点に留意を要する。   

財務健全性をAと評価する背景には、極めて高いキャッシュ創出力と規律ある資本配分が存在する。年初来の営業キャッシュフローは197億ドル(前年同期比14億ドル増)に達し、フリーキャッシュフローも55億ドルを確保している。年初来で51億ドル(4,230万株)の自社株買いを実施し、株主還元姿勢を明確に維持している。設備投資比率を売上高比で従来の3.5%から約4.0%へ引き上げ、店舗自動化やフルフィルメント機能強化への投資を加速させているが、強固な自己資金によって十分に賄われている。   

競争優位性をSと評価する理由は、全米人口の90%が10マイル以内に居住するという物理的店舗網をオムニチャネルのフルフィルメント拠点へと昇華させた点にある。店舗からの直接配送(前年同期比約40%増)のスピードとコスト効率で競合を凌駕している上、膨大な実店舗の購買データを背景とした広告事業のマネタイズ力は追随を許さないエコシステムを形成している。低所得者層だけでなく高所得者層のシェア獲得も進んでおり、 moat(濠)は依然として強固である。   

3.決算内容の深掘り分析

項目Q2 FY27実績前年同期比 (YoY)市場予想(コンセンサス)評価・備考
総売上高1,879.4億ドル+5.9% (+5.1% CC)1,868.0億ドル予想を上回り着地
調整後EPS$0.81+19.1%$0.74予想を0.07ドル上振れ
GAAP EPS$0.80-9.1%有価証券損益等(-$0.12)が圧迫
営業利益 (Reported)93.83億ドル+28.8%関税還付金の一時的押し上げ効果含む
調整後営業利益 (CC)92.00億ドル+17.4%為替影響・特殊要因調整後の本業数値
粗利益率25.40%+96 bps関税還付および高粗利事業の寄与
米国既存店売上高 (ex. fuel)+2.6%-200 bps+3.5% ~ 3.8%市場予想を下回り大きく減速
来店客数 (Transactions)+1.5%0 bpsトラフィック増加ペースは維持
平均客単価 (Average Ticket)+1.1%-200 bps前四半期および前年比で伸び率急減
グローバルEC売上高+23.0%10四半期連続で20%超の成長
グローバル広告事業+38.0%米国 Connect は前年比 43% 増

決算の損益構造を細かく紐解くと、GAAP(米国会計基準)に基づく純利益と調整後数字との乖離が目立つ。当四半期のGAAPベースの純利益は前年同期比9.4%減の63.66億ドル、GAAP EPSは同9.1%減の0.80ドルへと減少した。この落ち込みは主に保有株式および投資有価証券の評価損益(1株あたり0.12ドルの押し下げ要因)に起因するものであり、特定の税金還付メリット(1株あたり0.11ドル)で一部相殺されたものの、最終利益を圧迫した。一方、本業の収益力を示す調整後EPSは0.81ドルと前年同期の0.68ドル(調整後ベース)から19.1%増加しており、見た目の本業数値は堅調に推移している。   

米国店舗事業における減速の背景には、明確な構造的変化とマクロ経済の動向が作用している。米国既存店売上高の伸び率2.6%は過去6年間で最も低い水準であり、客単価の上昇率が1.1%へ鈍化した背景には二つの主要因が存在する。一つ目は処方箋薬における価格改定影響であり、連邦政府による最大適正価格(Maximum Fair Price)規制の施行にともなう薬価デフレが既存店売上高を約80~125 bps押し下げた。健康・ウェルネス分野を除いた実質的な既存店売上高は約3.4%増となり、見かけほどの崩れではないものの、成長減速の事実は動かない。二つ目は低・中所得者層の消費購買行動の変化である。ガソリン価格の上昇や生活費全般のインフレ蓄積により、消費者は生活必需外品(アパレルや家庭用品等)の購入を控え、1回の買い物におけるバスケットサイズを抑制する動きを強めている。全所得層で市場シェアを獲得し続けている点に鑑みれば他社への顧客流出ではなく、消費市場全体のモメンタム低下が同社の店舗数値を押し下げていると捉えるのが妥当である。   

当四半期の粗利益率改善(+96 bpsの25.4%)および営業利益率の跳ね上がり(報告ベース28.8%増)については、割り引いて評価する必要がある。改善幅の大半は、国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づき受け取った関税還付金による一時的なコスト削減効果によるものである。調整後営業利益(恒常通貨ベース17.4%増)の成長率に対しても、関税還付が約750 bpsのプラス寄与をもたらしたと推計される。この還付金影響を除外した場合の実質的な営業利益成長率は会社側の上限ガイダンス付近にとどまっており、本業自体の稼ぐ力が前年比で約29%も跳ね上がったわけではない。   

デジタル事業および新規高利幅ビジネスの進展は、同社の長期的成長シナリオを支える重要な要素である。グローバルEC売上高は前年同期比23%増(米国ECは24%増)と高調を維持し、店舗受け取りおよび店舗出荷型配送(前年同期比約40%増)が牽引役となった。マーケットプレイス事業の出展者・商品数が拡大したことで、米国マーケットプレイス売上高は52%増を記録した。さらに、自社ファーストパーティデータを活用したリテールメディア広告事業「Walmart Connect」は米国で前年同期比43%増と急成長し、会員金収入(同17%増)とともに店舗販売の低い利幅を補う高収益エコシステムとして機能している。海外部門においても恒常通貨ベースで7.9%の増収を達成し、とりわけEC化率が55%へ達した中国市場(売上高20.7%増)やインドのフリップカートが成長に貢献している。   

4.競合他社との比較

指標ウォルマート (WMT)ターゲット (TGT)アマゾン (AMZN)
対象四半期Q2 FY27 (2026年5-7月)Q2 FY26 (2026年5-7月)Q2 2026 (2026年4-6月)
総売上高1,879.4億ドル (+5.9%)265.4億ドル (+5.3%)2,006.0億ドル (+19.6%)
米国既存店売上高 (Comp Sales)+2.6% (ex. fuel)+3.8%N/A
来店客数 / トラフィック成長+1.5%+3.6%N/A
EC売上高成長率+23.0% (グローバル)+8.7% (Digital comp)直営・3P販売とも高成長
広告事業成長率+38.0% (グローバル)+20.0% (Roundel)業界屈指の規模を維持
営業利益率5.00% (調整後CC)9.60% (関税還付除外時 5.9%)全社 7.0%超 (AWS含む)
予想PER (Forward P/E)約36.6倍約19.0倍約35~40倍

競合相手であるターゲットとの比較においては、直近四半期における店舗の集客力と既存店売上高の成長率で暗暗裏の逆転現象が発生している。ターゲットの当四半期における既存店売上高成長率は3.8%増となり、ウォルマートの2.6%増を上回った。ターゲットは店舗のトラフィック(来店客数)が3.6%増と力強く伸びており、食品・日用品売り場の大規模改装(スナック類売上15%増)や手頃な価格帯の玩具・トレンド商品の投入が実を結んでいる。また、ターゲットもウォルマートと同様に関税還付金9.94億ドル(EPS換算で1.65ドル分)の恩恵を受けて営業利益率が一時的に9.6%(還付金除外時でも5.9%)へと急上昇した。   

しかしながら、デジタルプラットフォームの拡大力と収益基盤の多様化という長期軸においては、依然としてウォルマートがターゲットを圧倒している。ウォルマートのEC成長率23%に対し、ターゲットのデジタル既存店成長率は8.7%にとどまり、広告事業の成長率においてもウォルマートの38%に対してターゲット(Roundel)は20%増に留まっている。生活必需品(食料品)の売上比率が過半を占めるウォルマートは景気後退局面における耐性が極めて高く、この事業モデルの違いが予想PERにおけるターゲットの約19倍とウォルマートの約36.6倍という大きな評価差に反映されている。   

EC絶対王者であるアマゾンとの比較においては、ウォルマートが「実店舗を活用した即日配送エコシステム」で着実に追撃している構図が浮かび上がる。アマゾンはAWS(クラウド事業)の再加速(前年同期比37%増)によって全社売上高が2,006億ドル(同19.6%増)へ達し、高い収益性を誇る。一方、ウォルマートは全米に広がる店舗網を配送ハブとして活用することで、即日店舗出荷配送の数量を約40%急増させており、配送スピードとラストワンマイルのコスト効率においてアマゾンに引けを取らない体制を整えつつある。   

もっとも、株式市場がウォルマートに対してアマゾンに近い予想PER(30倍台後半)を付与している点には注意が必要である。アマゾンが高利益率のクラウド事業という強力な収益エンジンを擁しているのに対し、ウォルマートの収益源は依然として薄利な小売事業が中心である。広告やマーケットプレイスなどの高粗利事業が育っているとはいえ、アマゾンと同等の高評価マルチプルを維持するためには、実店舗売上の減速を相殺するほどの収益性改善を示し続ける必要がある。   

5.今後について

ウォルマートは第2四半期実績に基づき、2027年度通期の業績見通しを引き上げた。通期売上高成長率(恒常通貨ベース)を従来の「3.5%~4.5%増」から「4.0%~5.0%増」へ、調整後営業利益成長率を従来の「6.0%~8.0%増」から「7.0%~8.5%増」へ、調整後EPSを従来の「2.75~2.85ドル」から「2.80~2.87ドル」へとそれぞれ修正した。   

上方修正にもかかわらず株価が約9.2%下落した最大の要因は、この修正値が事前に市場で膨らんでいた期待値に対して極めて控えめであったことにある。修正後の通期調整後EPSの中央値(2.835ドル)は、決算直前にウォルマートへ寄せられていたウォール街のコンセンサス予想(約2.90ドル)を下回った。第2四半期に0.07ドルのEPS上振れを達成したにもかかわらず、通期予想の上限を引き上げた幅がわずか0.02ドルにとどまったことは、経営陣が下半期の業績動向に対して強い警戒感を抱いている証左と受け止められた。   

とりわけ投資家の失望を買ったのが、提示された2027年度第3四半期(2026年8月~10月期)の見通しの渋さである。第3四半期の恒常通貨ベースの売上高成長率は3.0%~3.75%増、調整後営業利益成長率は2.0%~4.0%増、調整後EPSは0.62~0.64ドルと予想されている。前年同期の調整後EPSが0.62ドルであったため、第3四半期の調整後EPS成長率は中間値ベースでわずか1.6%増にとどまることとなる。市場コンセンサス(0.68ドル前後)との乖離は明白であり、短期的には成長の足踏みが避けられない情勢である。   

第3四半期における利益成長率低下の背景には、会社側の戦略的判断と一時的な季節要因が絡み合っている。第一に、経営陣は第2四半期に受領した関税還付金をそのまま利益として残すのではなく、商品価格の値下げ還元(プライス・インベストメント)へ充てる方針を明言している。インフレ下で価格感応度が高まっている顧客を引き留め、市場シェアを維持・拡大するための適切な戦略的判断ではあるが、短期的には粗利益率を圧迫する要因となる。第二に、連結子会社であるインドのEC大手フリップカートにおける年間最大のセール「Big Billion Days」の開催時期が、前年の第3四半期から第4四半期へシフトしたことである。この時期調整により、第3四半期の売上高および営業利益が押し下げられ、第4四半期へ収益が偏重する変調が生じる。   

中長期的な視点に立てば、同社が推進する店舗自動化やフルフィルメント機能へのキャペックス(設備投資)投下、ならびに広告・マーケットプレイス・会員収入の拡大による構造的営業レバレッジの追求は、小売業の領域を超えた高い競争力を生み出している。しかしながら、PER 36.6倍という現在の株価位置は、そうした長期的な成功シナリオを極めて高い水準で事前に織り込んだものであった。第3四半期の利益成長が1%台へ減速する局面において、市場は高すぎる期待マルチプルを維持することを拒否し、現実的な収益成長ペースに見合う株価水準への調整を選択したと言える。   

6.結論

ウォルマートの2027年度第2四半期決算は、表面的な売上高・EPSの上振れとは裏腹に、同社が直面する成長限界とバリュエーションの課題を白日の下に晒す結果となった。一時的な関税還付金による利益率のかさ増しを除いた場合の実質的な本業成長ペースは落ち着いており、主力の米国店舗における既存店売上高の減速と客単価の伸び悩みは、米国消費者の手元資金の厳しさを鮮明に示している。   

さらに、受領した還付金を還元値下げに投じる戦略やセール時期の偏重により、第3四半期の調整後EPS成長率が前年同期比約1.6%増へ鈍化する見通しが示されたことで、PER 40倍近くまで買われていた株価のマルチプル縮小(株価急落)は不可避であったと評価せざるを得ない。   

投資判断としては、ウォルマートが持つ全米最強のオムニチャネルインフラ、高粗利ビジネスへのシフト能力、およびリセッション耐性に基づく圧倒的優位性は揺らいでいないため、既存株主にとっては一喜一憂せずに長期保有を継続(ホールド)するのが妥当である。しかし、新規に資金を投じる投資家にとっては、急落後であってもなおPER 36倍超という水準に割安感は乏しく、第3四半期における利益成長の足踏みや米国店舗トラフィックの再加速を見極めるまで、焦らずに押し目を待つ慎重なアプローチが求められる。   

7.注意

本記事は、公開されている市場データおよび調査レポートに基づき、投資判断の参考として作成されたものです。実際の投資にあたっては、各国の法規制、市場動向、および企業の財務状況を十分に精査した上で、自己責任で行ってください。

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