面白い名前の投資信託「百花繚乱3ヵ月決算型」のパフォーマンスを深層分析する

1.要約

本レポートは、米国株市場を主戦場とし、合理性と資本効率を徹底的に追及する投資家の視点から、かつて日本の投資信託市場に存在した「中国株厳選ファンド3ヵ月決算型(愛称:百花繚乱3ヵ月決算型)」の全貌を解き明かすものである。

当ファンドは、T&Dアセットマネジメントによって2008年1月31日に設定された追加型株式投資信託である。香港、上海、深センの各取引所に上場する中国およびグレーターチャイナ地域の中小型株を主要な投資対象とし、「中国経済成長の恩恵を享受する」という壮大なテーマを掲げていた。また、ファミリーファンド方式を採用し、実質的な運用指示は香港の国泰君安アセット(アジア)に一部委託するという、当時の新興国投資としては本格的なグローバル体制を敷いていた

しかし、「百花繚乱(無数の花が一斉に咲き乱れる様)」という極めて魅力的な愛称とは裏腹に、当ファンドの歩んだ道のりは残酷なまでに険しいものであった。設定直後の2008年は、奇しくも米国サブプライムローン問題に端を発する世界的金融危機(リーマン・ショック)の直撃を受けた時期であり、船出から歴史的な大暴落に見舞われた。さらに、年率1.998%(税込)という高額な信託報酬、中小型株特有の高いボラティリティ、そして為替ヘッジを行わない方針が災いし、運用成績は長期にわたって低迷を続けた。

結果として、資産規模(純資産総額)は健全な分散投資を維持するための水準を大きく割り込み、2016年11月末時点ではわずか2億2,600万円(226百万円)にまで縮小した。資金流出と基準価額の下落という「負のスパイラル」から抜け出すことができず、最終的に2016年11月22日をもって新規の買付申込受付を終了し、2017年1月12日に予定を早めて繰上償還(信託終了)されるという、投資家にとっては手痛い結末を迎えたのである

本稿では、この「百花繚乱」がなぜ散る運命にあったのか、その商品設計の構造的な脆弱性と、現代の投資家がここから汲み取るべき教訓を、米国株式市場の歴史的データとも対比させながら、優しくも辛口に深掘りしていく。

2.評価

総合評価:D

当ファンドに対する客観的かつ総合的な評価は、残念ながら「D(推奨水準を大きく下回り、構造的な欠陥を抱えていた商品)」とせざるを得ない。その理由は、一過性の不運にとどまらない、長期的な資産形成を阻害する4つの根本的な要因に集約される。

① タイミングの不運と「テーマ型」の宿命 当ファンドが設定された2008年1月31日は、世界の株式市場が崩壊に向かう直前であった。2008年単年で見ると、米国を代表するS&P 500指数のトータルリターンはマイナス37.00%という壊滅的な数値を記録している。新興国であり、かつ中小型株を中心とする当ファンドの下落圧力がこれをさらに上回ったことは想像に難くない。新興国ブームが日本の個人投資家にまで波及し、最も相場が過熱した「天井」付近でこのようなテーマ型ファンドが組成・販売されることは金融業界の常であるが、投資家目線では極めて不利なスタート位置であったと言える。

② 投資家を長期間圧迫し続けた法外なコスト構造 純資産総額に対して年率1.998%(税込)という信託報酬は、現代の米国株インデックス投資に慣れ親しんだ投資家の目には驚くべき高水準として映る。さらに設定当初には上限4.32%(税込)という極めて高額な購入時手数料が設定されていた。運用末期の2016年6月には、マネックス証券などでノーロード(購入手数料無料)化されたものの、これは純資産流出を食い止めるための「遅きに失した延命措置」に過ぎなかった。高い手数料は確実に複利のエンジンを破壊する。

③ 資産規模(AUM)の枯渇による「死の螺旋」 投資信託において、純資産総額(AUM)の規模は単なる人気投票ではなく、ファンドの生存能力そのものである。当ファンドは2016年末にかけて純資産総額が2.26億円にまで縮小した。一般的に、ファンドの規模が10億円を割り込むと、監査費用や有価証券の売買コストなどの固定費が相対的に重くのしかかる。さらに、中国市場における最低取引単位の制約から、意図した分散投資やリバランスが物理的に困難となる。この「スケールメリットの喪失」が、繰上償還という最悪の結末を招いた直接的な原因である。

④ 「タコ足配当」の疑念と複利効果の放棄 当ファンドは「3ヵ月決算型」と銘打ち、設定来で合計3,600円の分配金を支払っている。しかし、基準価額が設定時の10,000円から6,588円(2016年11月末時点)まで下落している状況下での分配は、実質的に投資家の元本を取り崩して払い戻す「特別分配金(いわゆるタコ足配当)」の側面が強かったと推測される。高いボラティリティを伴う新興国株式ファンドにおいて、定期的に資金を流出させる分配方針は、資産を雪だるま式に増やすための「複利の力」と真っ向から矛盾する設計であった。

以上の理由から、いくら愛称が美しくとも、当ファンドは長期的な資産形成の器としては不適格であったと断じざるを得ない。

3.内容の深掘り分析

当ファンドがどのような哲学で運用され、そしてなぜ破綻へと追い込まれたのか。投資戦略、マクロ経済環境、そして米国市場との対比という多角的なアプローチからさらに深くメスを入れていく。

ファミリーファンド方式とアクティブ運用の限界

当ファンドの運用形態は、日本のベビーファンドに集めた資金を「中国株厳選マザーファンド」に集約し、実質的な運用を行うファミリーファンド方式であった。そして、マザーファンドの銘柄選定や運用指示は、現地香港の国泰君安アセット(アジア)に一部委託されていた

投資対象の核は、香港、上海、深センの各取引所に上場する中国およびグレーターチャイナ地域(中国・香港・台湾)の中小型成長株であった。中小型株は、大型株に比べてアナリストのカバー率が低く、情報の非対称性が存在するため、現地の運用会社が「足で稼ぐ」リサーチを行うことで、市場平均(インデックス)を上回るアルファ(超過収益)を獲得しやすい領域とされている

しかし、中小型株には「流動性リスク」という致命的な弱点がある。2008年の金融危機時や、その後のチャイナショック(2015年)のように市場全体のセンチメントが極端に悪化した際、投資家は真っ先に流動性の低い中小型株を投げ売る。結果として、ファンドマネージャーがどれほど優秀な企業を発掘していても、市場全体のパニック売り(ベータの暴力)には抗うことができず、パフォーマンスは壊滅的な打撃を受けたのである。

為替ヘッジなしという選択の二面性

当ファンドは「原則として為替ヘッジを行わない」という方針を貫いていた。これは、人民元や香港ドルなどの通貨が日本円に対して上昇(円安)すれば為替差益を享受できる一方で、円高に振れれば株式の評価額に関わらず基準価額が下落することを意味する。

2008年のリーマン・ショック以降、日本市場は長きにわたり1ドル=70円台〜80円台を推移する「超円高時代」に突入した。当然、米ドルにペッグしている香港ドルや、実質的に連動性の高い人民元に対しても大幅な円高が進行した。2012年の運用報告書には「香港ドルの対円での上昇」が基準価額上昇の要因として記載されている時期もあったが、運用期間全体を通してみれば、為替の変動は中小型株の激しい値動きと相まって、ポートフォリオのリスク(標準偏差)を制御不能なレベルまで増幅させる結果となった。

破壊された機会費用:米国株式市場(S&P 500)との残酷な対比

投資の成果を測る上で最も重要な概念の一つが「機会費用(Opportunity Cost)」である。当ファンドに資金を拘束されていた期間、他の市場に投資していればどれだけのリターンが得られたかを検証することは、米国株投資家として不可欠なプロセスである。

2016年11月末時点のデータによれば、当ファンドの過去1年の騰落率はマイナス14.3%、過去3年ではマイナス3.9%、設定来の基準価額は10,000円から6,588円へと大きく沈んでいた

一方、同じ期間の米国株式市場(S&P 500トータルリターン・インデックス)のパフォーマンス推移は以下の通りである。

S&P 500 トータルリターン中国株厳選ファンド(百花繚乱)の状況
2008年-37.00%1月に設定。直後から世界的暴落の直撃を受け純資産が急減。
2009年+26.46%世界的な反発局面。しかし初期の傷が深く純資産流出が続く。
2010年+15.06%10月決算で運用報告書を作成するも、純資産の減少傾向は止まらず
2011年+2.11%超円高時代。為替ヘッジなしの当ファンドには逆風。
2012年+16.00%運用報告書にて香港ドル高による一時的な基準価額上昇を報告
2013年+32.39%米国株は歴史的な大相場へ。
2014年+13.69%米国株の安定成長が継続。
2015年+1.38%中国市場における「チャイナショック」発生。当ファンドに致命傷。
2016年+11.96%11月に新規申込受付を終了。純資産2.26億円

この対比表が示す現実は残酷である。2008年の暴落こそ共通しているものの、その後、米国市場は自浄作用を働かせ、圧倒的なイノベーションと資本効率の改善によって力強い回復(例えば2013年の+32.39%)を遂げた。もし投資家が、高い手数料を払いながら下落し続ける当ファンドに見切りをつけ、S&P 500に資金を移していれば、資産は大きく成長していたはずである。

ファンドマネージャーの苦悩は想像に難くない。しかし、投資家の貴重な資本を預かる金融商品として見た場合、高い信託報酬を徴収しながら市場の回復期にすら利益を創出できなかった事実は、厳しい評価を下さざるを得ない。

4.競合他社商品との比較

当ファンドの立ち位置を相対化し、なぜ「百花繚乱」だけが早期に市場から退場せざるを得なかったのかを明らかにするため、同時代に設定・運用されていた他社の中国株ファンドと比較分析を行う。

以下の表は、当時から現在に至るまで日本の投資家に提供されてきた代表的な中国株ファンド(アクティブおよびインデックス)の比較である。

ファンド名運用会社設定年信託報酬(年率・税込)規模の目安 / 運用状況最大下落率等の特徴
中国株厳選ファンド3ヵ月決算型(百花繚乱)T&Dアセットマネジメント2008年1.998%約2.2億円(2016年末) / 償還済資産枯渇により2017年繰上償還
アムンディ・中国株ファンド(愛称:悟空)アムンディ・ジャパン2004年以前約13.59億円 (直近) / 運用中2007年最高値40,549円から2008年に7,039円へ大暴落
三井住友・ニュー・チャイナ・ファンド三井住友トラスト・アセット2008年以前約153.1億円 (直近) / 運用中2007-2008年にかけて最大下落率**-71.39%**を記録
(参考)新成長中国株式ファンド(インデックス)楽天投信投資顧問2007年1.76%– / 運用中2008年10月に最安値3,287円を記録
(参考)中国A株ファンド(インデックス)楽天投信投資顧問2005年2.31%– / 運用中信託報酬2.31%と高コストなインデックス

生存バイアスとマーケティング力の差

比較表から明らかになるのは、2008年の金融危機において、どの中国株ファンドも等しく壊滅的な打撃を受けていたという事実である。

例えば、「三井住友・ニュー・チャイナ・ファンド」は、2007年11月から2008年10月にかけてマイナス71.39%という凄まじい最大下落率を記録している。また、「アムンディ・中国株ファンド(愛称:悟空)」も、最高値からわずか1年で基準価額が約6分の1(40,549円から7,039円)に吹き飛ぶ経験をしている。楽天投信のインデックスファンドも同様に、2008年に記録的な安値をつけている

では、なぜ他社ファンドは現在まで生き残り、百花繚乱は散ってしまったのか。その決定的な違いは、初期の資金集約力(マーケティング力)と、販売網の太さにあったと分析できる。

メガバンクや大手証券会社を強力な販売チャネルとして持つファンド(例えば三井住友のファンドは現在でも153億円もの純資産を誇る)は、暴落時にも積立投資などによる一定の資金流入が期待でき、純資産の完全な枯渇を免れる体力があった。対して、百花繚乱ファンドは初期段階で十分な規模(クリティカル・マス)を構築できず、暴落後の解約ラッシュに耐えうるだけのバッファーを持っていなかった。

コスト面での優位性の欠如

また、コスト競争力という観点でも、当ファンドには特筆すべき強みがなかった。信託報酬1.998%という水準は、当時の新興国アクティブファンドとしては標準的であったかもしれないが、楽天投信の中国株インデックスファンド(1.76%〜2.31%)と比較しても、優位性は皆無であった。商品としての差別化要因が「百花繚乱という美しい愛称」と「3ヵ月ごとの分配」のみであったことが、暴落後に新規の賢明な投資家を惹きつけることができなかった最大の要因である。

5.今後について

「百花繚乱3ヵ月決算型」は、2016年11月22日に買付受付を終了し、2017年1月12日に繰上償還されたため、このファンド自体に「今後」は存在しない。しかし、米国株を主たる投資対象とし、データに基づく合理的な判断を重んじる我々投資家にとって、このファンドの死から学ぶべき普遍的な教訓は極めて多い。今後の資産運用において避けるべき罠として、以下の3点を強く提示したい。

① 「テーマ型・愛称付き」ファンドへの根強い警戒

金融機関が特定の国やテーマ(今回であれば「中国経済の成長」と「中小型株」)にフォーカスし、情緒的な愛称を付けて販売するファンドは、往々にして市場が過熱しきった「ピーク時」に組成される。2008年1月という最悪のタイミングでの設定は、中国経済ブームの熱狂が、情報感度の低い個人投資家層にまで波及した最終局面であったことを示している。今後の投資においても、証券会社が大々的にキャンペーンを打つような「流行のテーマ型ファンド」には、一歩引いた冷徹な視点で臨むことが求められる。

② 分配金利回りの罠と「トータルリターン」の絶対視 「3ヵ月決算型」のような定期的な分配を謳うファンドは、目先のキャッシュフローを求める投資家にとって魅力的に映るかもしれない。しかし、ファンドの利益水準を超えた無理な分配は、自らの肉を削ぎ落とす行為に等しい。設定来3,600円の分配金を出しながら基準価額が6,000円台まで沈没した事実は、税制面でも運用効率の面でもマイナスでしかない。長期的な資産形成においては、分配金をファンド内で自動的に再投資し、複利効果を非課税で最大化できる設計のファンド(あるいはS&P 500のような広範なインデックス)を選択することが、勝者の鉄則である。

③ 損切りの決断と機会費用の認識 投資先が「構造的に勝てない(純資産の枯渇、高すぎる手数料、成長しない市場)」と判断した場合は、過去の損失(サンクコスト)に囚われず、迅速に資金を引き揚げる勇気が必要である。百花繚乱ファンドに資金を縛り付けられていた投資家は、同期間の米国市場(2009年〜2016年)の劇的な回復と成長の恩恵をすべて逃してしまった。資金をより資本効率の高い市場へシフトさせる決断力こそが、長期的なパフォーマンスを決定づける。

6.結論

「中国株厳選ファンド3ヵ月決算型(愛称:百花繚乱3ヵ月決算型)」は、2000年代後半の中国経済の急成長という壮大なフロンティアをターゲットにしながらも、不運なマクロ経済の転換点、運用体制を維持できないほどのスケール不足、そして投資家目線とは言い難い高コスト構造という「三重苦」によって自滅を余儀なくされたファンドである。

設定来、3,600円という分配金を捻出したものの、最終的な基準価額の大幅な下落と予定を早めた繰上償還という事実は、投資家に対して決して「百花繚乱」の果実をもたらすものではなかった。市場環境の悪化という外部要因だけでなく、1.998%という信託報酬が複利で純資産を蝕み、純資産減少がさらなる運用難を引き起こすというアクティブファンド特有の「死の螺旋(デス・スパイラル)」に陥った典型例として、金融史の片隅に教訓として記録されるべき事例である。

米国株投資家であるあなたが、こうしたファンドの構造的欠陥を冷静かつ客観的に分析できる眼力を持っていることは、今後の資産運用において極めて大きなアドバンテージとなるだろう。資本市場は常に冷酷であり、美しい名前や甘い謳い文句の裏には常に厳知な数字の現実が潜んでいる。我々は常に、手数料の透明性、ファンドの流動性を担保する資産規模、そして長期的な複利成長のポテンシャルという「本質」のみを見つめ、冷徹に資本の配分を行っていかなければならない。

7.注意

本記事は、公開されている市場データおよび調査レポートに基づき、投資判断の参考として作成されたものです。実際の投資にあたっては、各国の法規制、市場動向、および企業の財務状況を十分に精査した上で、自己責任で行ってください。

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