1.要約
2022年以降の地政学的緊張の劇的な高まりを受け、世界の安全保障環境は歴史的な転換点を迎えている。長らくESG投資の観点から敬遠されがちであった防衛産業は、今や民主主義と経済の安定を根本から支える不可欠なインフラとして再評価されている。この構造的なパラダイムシフトを背景に、2026年7月23日にカレラアセットマネジメントによって新規設定されたのが「日欧防衛ファンド」である。
本ファンドは、主として日本および欧州の金融商品取引所に上場している防衛関連企業の株式に投資し、中長期的な信託財産の成長を目指すアクティブファンドである。銘柄選定にあたっては、各企業の事業内容、成長性、収益性、財務健全性、バリュエーション、および流動性を総合的に勘案して厳選し、原則として為替ヘッジを行わない方針をとっている。
マクロ経済的な追い風は極めて強いと言える。北大西洋条約機構(NATO)加盟国の多くが国防費をGDP比2%へ引き上げる目標を達成しつつあり、日本においても2026年度の防衛関係予算が史上初めて9兆円を突破するなど、防衛装備品への需要は構造的な拡大期に入っている。
しかしながら、投資商品としての本ファンドを評価するにあたっては、その「魅力的なマクロテーマ」と、金融商品としての「コスト構造および設計上の課題」を冷静に切り離して分析する必要がある。米国株市場を中心とするグローバルな視点から見ると、米国という世界最大の防衛市場をあえて除外し、かつ相対的に高い手数料を課す本ファンドの構造には、長期投資の観点から慎重にならざるを得ない要素が散見される。本稿では、公開データと企業のファンダメンタルズを基に、当該ファンドの真の投資価値を徹底的かつ辛口に解剖していく。
2.評価
総合評価:C
(評価基準:S=強く推奨、A=推奨、B=ポートフォリオの一部として検討可、C=慎重な検討が必要、D=非推奨)
テーマの将来性やマクロ環境の強烈な追い風は、間違いなく高く評価できる。しかし、投資信託というビークル(金融商品)そのものの構造的課題を考慮し、総合評価はあえて「C」とする。その理由は以下の3点に集約される。
第一に、コスト構造が投資家の長期リターンを著しく毀損する水準にある点である。本ファンドは、購入時手数料が最大3.30%(税込)、信託報酬が年率1.5917%(税込)、さらに解約時の信託財産留保額が0.30%設定されている。米国市場に上場する優良な防衛セクターETF(経費率0.38%〜0.58%)や、国内の競合インデックスファンド(信託報酬0.77%)と比較すると、このコスト差は長期の複利効果において致命的なビハインドとなる。資産形成の基盤として活用するには、手数料のハードルが高すぎる。
第二に、グローバルな防衛市場における最大のプレイヤーである「米国企業」が投資対象から除外されていることによる機会損失である。世界の防衛予算の過半を占め、最先端の軍事技術を牽引するロッキード・マーチン、RTX、ゼネラル・ダイナミクス等の巨大防衛企業を最初からポートフォリオから外すことは、グローバルな防衛セクターの成長を十全に取り込む上で大きな制約となる。米国株を既に保有している投資家への分散効果を狙った設計とも解釈できるが、それにしても米国抜きのテーマファンドに年率約1.6%の信託報酬を支払う合理性は見出しにくい。
第三に、アクティブファンドとしての超過収益(アルファ)創出能力に対する不確実性である。運用を担うカレラアセットマネジメントは、小型株運用などで一定の評価を得ている独立系ブティックハウスであるが、巨大な情報網と分析力を持つグローバル運用会社がひしめく欧州の大型防衛株市場において、高い信託報酬を正当化し、ベンチマークを恒常的に上回るパフォーマンスを出し続けられるかについては、保守的に見積もらざるを得ない。
防衛というテーマ自体は極めて魅力的であるが、コストとポートフォリオ設計の観点から、無条件に資金を投じるにはハードルが高い商品である。
3.内容の深掘り分析
3.1 ファンドの基本構造と運用会社の実力
「日欧防衛ファンド」は2026年7月23日に設定され、信託期間は2056年7月20日までの30年間となっている。当初申込期間の上限は200億円、継続申込期間の上限は2,000億円に設定されており、安藤証券などを通じて販売されている。決算は年1回(7月20日)であり、原則として為替ヘッジを行わないため、為替変動リスクを直接的に負う設計となっている。
運用を担うカレラアセットマネジメントは、2011年に設立された取扱純資産総額約1,002億円規模の運用会社である。同社は「カレラ 日本小型株式ファンド」などで、アナリストのカバーが少ない時価総額1,000億円未満のニッチトップ企業を発掘し、高いリターンを上げる運用手腕に定評がある。しかし、日本の中小型株で発揮されたボトムアップのアプローチが、国家予算や地政学というマクロ要因に極めて強く依存する日欧の防衛セクター(その多くが各国の代表的な大型重工メーカーである)において、同様のアルファを生み出せるかは未知数である。防衛産業は政府との長期契約や国際的な共同開発プロジェクトが主体となるため、小型株特有の「情報の非対称性」を利用した超過収益の獲得が相対的に難しい領域だからである。
3.2 欧州防衛企業のファンダメンタルズと成長性
欧州の防衛産業は、ロシアによるウクライナ侵攻以降、数十年ぶりの活況を呈している。2025年にはNATOの全加盟国(常備軍を持たないアイスランドを除く)が防衛費GDP比2%目標を達成したと報告されており、これは予算のベースラインが構造的に底上げされたことを意味する。かつては防衛関連株の組み入れに慎重であった欧州のESGファンドでさえ、2022年1月時点の34.7%から2025年11月時点には49.6%へと保有比率を大幅に上昇させている。
本ファンドの主要な投資対象となる欧州の防衛企業の業績は、驚異的な成長を遂げている。以下に主要3社の最新の財務状況を示す。
| 企業名 (国) | 業績期間 | 売上高 | 営業利益 (マージン) | 受注残高 | 今後の見通し・ハイライト |
| Rheinmetall (独) | 2025年度 通期 | 99億3,500万ユーロ (前年比+29%) | 18億4,100万ユーロ (18.5%) | 638億ユーロ (前年比+36%) | 2026年は売上高140〜145億ユーロ、営業利益率約19%を見込む。民間事業から撤退し防衛に完全注力。 |
| Thales (仏) | 2025年度 通期 | 221億3,600万ユーロ (前年比+7.6%) | 27億4,000万ユーロ (12.4%) | 530億ユーロ超 | フリーキャッシュフロー25.7億ユーロ。2026年のオーガニック売上成長率6〜7%、EBITマージン12.6〜12.8%を目標。 |
| BAE Systems (英) | 2026年度 上半期 | 157億7,200万ポンド (前年比+9%) | 17億100万ポンド (10.8%) | 840億ポンド (過去最高) | 英国、欧州、米国、豪州等で広く事業展開。GCAP(次期戦闘機)やAUKUS(原子力潜水艦)など大型案件を抱え、通期見通しを上方修正。 |
ラインメタル(Rheinmetall)は、欧州の再軍備の恩恵を最も直接的に受けている企業の一つである。2025年の連結売上高は前年比29%増、営業利益は33%増となり、営業利益率は18.5%という極めて高い水準を記録した。同社は民間事業部門の売却プロセスを進めており、経営資源を638億ユーロに膨れ上がった防衛分野の受注残高の消化に集中させる戦略を採っている。
フランスのタレス(Thales)は、防衛電子機器やサイバーセキュリティ分野で強みを持ち、2025年の売上高は221億ユーロ、フリーキャッシュフローは25億ユーロを超えた。受注残高は524億ユーロと、現在の売上高の2年分以上の高い可視性を確保しており、株主還元(配当性向約40%)も安定している。
英国のBAEシステムズ(BAE Systems)は、2026年上半期の売上高が前年同期比9%増の158億ポンド、受注残高は過去最高の840億ポンドに達した。同社の売上構成は米国向けが43%、英国向けが27%、欧州向けが12%とグローバルに分散されており、日英伊による次期戦闘機(GCAP)や豪州のレーダーシステムなど、国際共同プロジェクトの中核を担っている。
欧州企業は総じて高い利益率と強固な受注残高を有しており、欧州市場への投資は、テーマ型ファンドとして非常に理にかなっている。
3.3 日本防衛企業のファンダメンタルズと収益構造の変革
日本の防衛産業もまた、戦後最大の転換点を迎えている。日本政府は防衛費をGDP比2%へと引き上げる方針を前倒しで進め、2026年度の防衛関係予算は初めて9兆円を突破した。さらに、長年「低収益」とされてきた国内防衛産業の構造を根本から変革すべく、防衛省は2023年度から、防衛装備品の発注に対する企業の利益率を最大15%まで認める新制度を導入した。
国内の防衛関連銘柄の代表格は、三菱重工業、川崎重工業、IHIの「重工3社」である。それぞれの事業構造と防衛部門への依存度には明確な違いがある。
| 企業名 | 2025年3月期 防衛省向け売上 | 前年比成長率 | 防衛セグメント利益率 | 全社業績に占める防衛の割合 | 主要プロジェクト・特徴 |
| 三菱重工業 | 7,042億円 | +43.8% | 9.7% | 全社売上(約5兆円)の約14% | 戦闘機、飛しょう体(ミサイル)、艦艇、宇宙領域を網羅。次期戦闘機(GCAP)の日本側主契約者。防衛セグメントの研究開発費は1,205億円と突出。 |
| 川崎重工業 | 4,009億円 | +38.9% | 9.8% | 全社売上(約2.1兆円)の18.8% | 3社中で最も防衛依存度が高い。P-1哨戒機、潜水艦など独自のプラットフォームに強み。自社開発エンジンKJ300の展開を進めるが、コンプライアンス問題の改革途上。 |
| IHI | 非開示 (10%未満) | – | 22.2% | 全社利益の77.1% (航空・宇宙・防衛セグメント) | 航空エンジン分野に特化。前年度のPW1100G-JMエンジン問題に伴う巨額損失(約1,659億円)から急回復し、利益率が劇的に改善。 |
三菱重工は、防衛分野において国内で圧倒的な支配力を持つ。2025年3月期の防衛省向け売上は7,042億円に達し、研究開発費(R&D)も防衛セグメント単独で1,205億円を投じている。これは川崎重工の全社R&D(489億円)を大きく上回る規模である。しかし、全社売上が5兆円を超える同社にとって、防衛部門は収益の柱の一つ(エナジー事業等と並ぶ)に過ぎない点には留意が必要である。
川崎重工は、防衛省向け売上が全社の18.8%を占め、3社の中で最も防衛依存度が高い。潜水艦や哨戒機といった完成品プラットフォームを独自に保有しているが、過去の潜水艦修繕事業などにおける不適切事案を受けたコンプライアンス改革の途上にあり、ガバナンス面のディスカウントが存在する。
IHIは、防衛・航空宇宙セグメントの利益が全社利益の77.1%を占めるという極端な集中構造を持っている。過去に民間航空機向けエンジンの不具合対応で巨額の損失を計上したものの、その悪材料を出し切ったことで業績は急回復し、足元では22.2%という高いセグメント利益率を叩き出している。
日本の重工3社の株価は、防衛予算増額の追い風を受けて過去3年半で急騰している(三菱重工は約9倍、IHIは約6倍、川崎重工は約4倍)。これは将来の利益成長をかなりの程度先取り(Priced in)した結果であり、PERなどのバリュエーション指標はかつての割安な水準にはない。本ファンドの運用チームが、これら大型株の高値圏でどのような投資判断を下すか、あるいは中小型の防衛サプライチェーン銘柄をいかに発掘できるかが、日本株部分のパフォーマンスを分ける鍵となる。
3.4 高コスト構造がもたらす「負の複利効果」
本ファンドの評価において最大の障壁となるのが、極めて重いコスト構造である。
- 購入時手数料: 最大3.30%(税込、5千万口未満の場合)
- 運用管理費用(信託報酬): 年率1.5917%(税込)
- 信託財産留保額: 0.30%(解約時)
投資とは確率とコストの勝負である。仮に100万円を投資した場合、入口で3万3,000円が控除され、実質的な運用は96万7,000円からスタートする。さらに、市場のボラティリティに関わらず、毎年約1.6%の管理費用が純資産から確実に差し引かれ続ける。
仮に防衛セクターの市場平均期待リターンが年率7%であったとしても、本ファンドの投資家が手にするネット・リターンは年率5.4%程度まで圧迫される。米国市場において、特定セクターに特化したファンドで年率1.5%を超える経費率を課す商品は、極めて稀であり、淘汰の対象となりやすい。これほどの手数料を正当化するためには、パッシブなインデックスを毎年恒常的に2〜3%以上アウトパフォームする強力なアルファの創出が不可欠であるが、効率化された日欧の大型防衛株市場において、それを30年間にわたり継続することは極めて困難であると言わざるを得ない。
4.競合他社商品との比較
テーマがどれほど優れていても、同じテーマにアクセスするためのより効率的な金融商品が存在する場合、投資家は冷徹にコストと流動性を比較すべきである。以下に、本ファンドと競合する主要なインデックスファンドおよび米国の巨大防衛ETFの詳細な比較を示す。
| 比較項目 | 日欧防衛ファンド | 欧州防衛・航空宇宙株式インデックスファンド | iShares U.S. Aerospace & Defense ETF (ITA) | Invesco Aerospace & Defense ETF (PPA) |
| 運用会社 | カレラアセットマネジメント | 三菱UFJアセットマネジメント | BlackRock (iShares) | Invesco |
| 運用手法 | アクティブ | インデックス | インデックス | インデックス |
| 主な投資地域 | 日本、欧州 | 欧州 | 米国 | 米国 |
| 信託報酬 / 経費率 | 年率 1.5917% | 年率 0.77% | 年率 0.38% | 年率 0.58% |
| 購入時手数料等 | 最大 3.30% | なし (ノーロード) | なし (証券会社の手数料に依存) | なし (証券会社の手数料に依存) |
| 純資産総額(AUM) | 約43億円 (2026年7月時点) | 約11.4億円 (2026年7月時点) | 約141億ドル (約2兆円超) | 約80億ドル (約1.1兆円超) |
| 組入トップ銘柄例 | 国内重工3社、欧州主要防衛企業等 | Rheinmetall, Thales, BAE Systems 等 | GE Aerospace, RTX, Boeing, Lockheed Martin | GE Aerospace, Boeing, RTX |
| 流動性 (ADV) | 低い | やや低い | 高い (約73万株/日) | 高い (約18万株/日) |
| 主な情報源 |
4.1 対 国内インデックスファンド(三菱UFJアセットマネジメント)
2025年11月に設定された三菱UFJアセットマネジメントの「欧州防衛・航空宇宙株式インデックスファンド」は、本ファンドの欧州投資部分と完全に競合する。当該ファンドは「MSCI Europe Aerospace and Defense Ex Controversial Weapons Capped Index」に連動することを目指し、信託報酬は0.77%と「日欧防衛ファンド」の半値以下である。しかも購入時手数料は無料(ノーロード)である。
日本株の防衛銘柄(三菱重工、川崎重工、IHIなど)は、日本の個人投資家であれば単元未満株取引などを用いて、実質的に取引手数料ゼロで個別株として直接買い付けることが極めて容易である。したがって、「高い手数料を支払って日欧が混ざったパッケージ商品を買う」よりも、「日本の防衛株は自分で個別保有し、欧州の防衛株は信託報酬0.77%のインデックスファンドでカバーする」という戦略の方が、トータルコストを劇的に抑制でき、かつポートフォリオの透明性も高まる。
4.2 対 米国防衛ETF(ITA, PPA)
さらにグローバルな視点に立てば、世界最大の防衛市場である米国企業を除外している点は、本ファンドの最大の戦略的弱点と言える。
米国市場には、圧倒的な規模と流動性を誇る防衛セクターETFが存在する。BlackRockが運用する「ITA (iShares U.S. Aerospace & Defense ETF)」は、経費率わずか0.38%でありながら、純資産総額は約141億ドル(約2兆円超)に達する。構成銘柄にはGE Aerospace(21.9%)、RTX(17.0%)、Boeing(9.2%)、Lockheed Martin(4.6%)などが名を連ね、世界の航空宇宙・防衛産業の心臓部を的確に押さえている。
また、Invescoが運用する「PPA (Invesco Aerospace & Defense ETF)」は、経費率0.58%で純資産約80億ドルを誇る。PPAはITAと比較して構成銘柄数が多く(61銘柄)、トップ銘柄への集中度がやや低い設計となっており、2026年年初来のパフォーマンスではITA(+7.87%)を上回るリターン(+8.74%)を記録するなど、優良な実績を残している。
米国株投資家の目線からすれば、「なぜ世界の防衛費の過半を占め、最高水準の技術力を持つ米国の巨大防衛企業を外し、わざわざコストが数倍も高い日欧限定のファンドを買う必要があるのか?」という疑問を抱かざるを得ない。確かに、S&P500などに連動するインデックスファンドを既にコアとして保有している投資家にとっては、米国防衛株との重複を避け、日欧の防衛株を「分散効果が得られるサテライト資産」として利用する論理は成立し得る。しかし、そのわずかな分散効果を得るための対価として、3.30%の購入手数料と1.5917%の信託報酬を支払うことは、リスクプレミアムの観点から到底見合わない。
5.今後について
防衛セクターの今後の見通しについては、マクロ環境の構造的変化とミクロ環境(バリュエーションや個別企業の実行力)の両面から、冷静に評価する必要がある。
5.1 構造的成長と予算拡大の持続性
防衛産業への追い風は、一過性のテーマではなく、長期的なパラダイムシフトである。「自国の安全保障は自らの手で守る」という自立防衛の理念のもと、欧州は冷戦終結後、数十年ぶりに本格的な軍事基盤の再構築を迫られている。2025年にNATO全加盟国(アイスランド除く)が防衛費GDP比2%目標を達成したことは、欧州の防衛予算のベースラインが構造的に底上げされたことを意味し、今後数年間にわたり確実な需要を生み出す。
日本においても、2027年度までに防衛関連予算をGDP比2%に引き上げる計画が着々と進行中であり、次期戦闘機(GCAP)やスタンド・オフ・ミサイル(12式地対艦誘導弾能力向上型など)の開発・配備に向けた巨額の予算が投下されている。各社が抱える天文学的な受注残高は、今後5〜10年間のキャッシュフローを強力に下支えするエンジンとなる。
5.2 バリュエーションの高騰と内包されるリスク
一方で、株式市場は常に未来を織り込む。現在の日欧防衛関連企業の株価は、今後の予算拡大と利益率の改善を既に強力に織り込んだ水準にある。過去10年間で三菱重工の株価がTOPIXの約5.1倍のリターンを記録したように、防衛セクターのPER(株価収益率)は歴史的な高水準に達している。市場の期待値(ハードル)は極めて高く、少しでも失望を誘う決算が発表されれば、手痛い調整を余儀なくされる。
今後のダウンサイド・リスクとしては以下の3点が挙げられる。
- サプライチェーンの脆弱性と開発遅延: 防衛装備品は数万点の部品からなる極めて高度なシステムのすり合わせが必要である。IHIが直面した航空エンジンの不具合問題のように、一つのサプライヤーの欠陥が巨額の引当金計上や納期遅延につながるリスクは常に存在する。
- 地政学的な「緊張緩和(デ・エスカレーション)」: 逆説的ではあるが、ウクライナ情勢や中東情勢において、関係各国の政治的妥協により劇的な停戦合意や緊張緩和がもたらされた場合、防衛株は「平和のリスク(Peace Risk)」によって急激なマルチプル・コンストラクション(バリュエーションの低下)に見舞われる可能性がある。
- 政権交代による予算計画の見直し: 防衛予算は究極的には各国の政治的決定事項である。欧州各国の財政赤字が拡大する中、政権交代や世論の変化により防衛予算の伸びが鈍化した場合、現在の高いバリュエーションが修正される余地は大きい。
これらの複雑な変数の中で、本ファンドの運用チームは、割高な大型銘柄を適切にアンダーウェイトし、成長余力のある中小型防衛サプライヤーを機動的に発掘していくことが求められる。
6.結論
「日欧防衛ファンド」が着目する『日本および欧州の防衛産業の復活と成長』というマクロ・テーマは、極めて論理的であり、現在のグローバルな安全保障環境の変化を的確に捉えている。NATOの国防費増額や、日本の防衛予算GDP比2%への引き上げは、対象企業の長期的な収益を保証する強力な裏付けとなる。
しかしながら、米国株市場のダイナミズムとコスト効率を熟知する投資家の視点から結論づければ、本商品は「マクロテーマの着眼点は一流だが、金融商品としての器(コスト構造とポートフォリオ設計)に看過できない難がある」と評価せざるを得ない。
購入時最大3.30%、信託報酬年率1.5917%という手数料は、将来のリターンが不確実な株式投資において、投資家が「確実に負うマイナス・リターン」である。長期にわたる複利効果を味方につける資産形成において、このコスト・ドラッグ(抵抗)は容認できる水準を大きく超えている。
日欧の防衛セクターに投資機会を見出すのであれば、より効率的でスマートな代替手段が十分に存在する。日本の防衛関連企業(三菱重工、川崎重工、IHI等)については、取引手数料が実質ゼロ化している現在の日本の証券口座を活用し、個別株として直接ポートフォリオに組み込むことが容易かつ最適である。そして、欧州の防衛企業へのエクスポージャーを得たい場合は、三菱UFJアセットマネジメントが提供する「欧州防衛・航空宇宙株式インデックスファンド」(信託報酬0.77%、ノーロード)を利用する方が、圧倒的にコストパフォーマンスに優れている。
さらに、グローバルな防衛セクター全般の成長を取り込むことを志向するのであれば、世界最大の防衛予算を享受する米国市場の巨大ETF「ITA(経費率0.38%)」や「PPA(経費率0.58%)」をポートフォリオの中核に据えるのが、流動性、分散効果、およびコストの観点から最も王道かつ合理的なアプローチである。
本ファンドは、「高い手数料を支払ってでも、一つの商品で日欧の防衛株に手軽に投資したい」という特定のニーズを持つ投資家が、ポートフォリオのごく一部(サテライト枠)を振り向ける対象としては機能するかもしれない。しかし、コストに対する意識が高く、自らポートフォリオを最適化できる洗練された投資家にとっては、低コストのインデックス商品と個別株を組み合わせる「DIYアプローチ」の方が、長期的な投資成果の最大化に間違いなく寄与するであろう。
7.注意
本記事は、公開されている市場データおよび調査レポートに基づき、投資判断の参考として作成されたものです。実際の投資にあたっては、各国の法規制、市場動向、および企業の財務状況を十分に精査した上で、自己責任で行ってください。